修士課程に進学する意味
4回生の時の1年間の卒業研究で問題、課題、疑問が完全に明らかになることはまずないと思います。構築した物理モデルでそれなりに出てきた現象を説明できたとしても、やはり疑問は残るものです。構築した物理モデルと現象の差を埋めるべく、さらなる実験や物理モデルを拡張したりする作業が修士課程で行うことです。そもそも4回生の時に何かを進めようにもなかなか上手く進められず中途半端に終わっている場合も多いです。その失敗を糧に修士課程の2年間で穴埋めをすることもあります。
大切な2年間で、物事の本質を見つけ出していく作業は恐らく企業の開発サイドだけに立つとなかなか出来ない時間と思います。修士課程の2年間は、そういったことを経験し、物事の本質を見抜く直観力を磨いていく時間だと思います。一生懸命に過ごす修士課程2年間が終わる時には、この現象を説明できるのは私ただ一人かもしれない。そんなことを思えるようになると思います。
専門的にも高度な論理的思考を手に入れるのが修士課程に進学する大きな意味となります。
フリップファーム牡蠣養殖の自動化に向けた研究開発
修士課程は講義による勉強が2割、研究が8割といったところでしょうか。少し具体例を挙げながら見てみましょう。
近年フリップファーム牡蠣養殖というものが登場し、全く新しい牡蠣養殖を実現しようとしています。詳細はここでは割愛しますが、海面に浮かぶ牡蠣が入ったバスケットをクルクルと船で回して牡蠣を育てていきます。これを自動化する取り組みを4回生の1年と修士課程の2年の合計3年間の研究テーマとして選んでもらいました。
4回生の時はまずこの牡蠣のバスケットが並ぶラインを画像で認識する研究をしました。フリップファーム牡蠣養殖は一番上の写真のような形でバスケットが一列のラインになって浮かんでいます。船をラインに沿わせて走らせることでバスケットをクルクルと回していきます。画像認識により牡蠣バスケットを複数個抽出し、ラインを生成する技術を構築しました。
卒業研究ではバスケットの画像による抽出は出来ましたが、船と最初にひっくり返すバスケットとの距離までは分かりません。修士1回生の時は距離推定の問題に取り組みました。そして距離推定が出来るようになり、当研究室で開発が進んでいるロボット漁船の模型を用いてプールで牡蠣バスケットを模擬したラインに沿って走る技術を構築することに成功しました。次の目標は、風や流れのある中でのロボット漁船のシミュレーション技術を通した操船技術の高度化です。
数年後にこれが商品化され、フリップファーム牡蠣養殖の現場で実用化されることになっていくのかと思うと楽しみです。一歩、一歩着実に研究開発のレベルを上げていきたいものです。まずは開発を進め、開発の中で出てくる疑問点を研究して次の新たな開発のステージに登らせていくことが修士1回生、修士2回生の中でやっていくことかと思います。
修士の2年間では、コツコツ地道に研究を進めていくことが重要です。4回生、修士1回生での準備が無ければ修士2回生では決して花を咲かせることはできないのです。
ロボット漁船の操船シミュレーション技術の構築に向けて①
風や流れがない中では画像認識により牡蠣バスケットを認識して、ロボット漁船との距離を割り出して牡蠣バスケットのラインに沿って航行させることができました。一方で風や流れがある中では制御パラメータを変える必要があります。実際の現場で風速や流れに応じて制御パラメーターを変えることはとても現実的とは思えません。事前にどれくらいの値にしておけば良いか知る手段としてロボット漁船の操船シミュレーションが出来ると助かるわけです。
ロボット漁船の操船シミュレーションプログラムの構築に向けた実験やプログラミングが始まりました。細かい説明は省きますが、まずは対象とするロボット漁船の模型を3Dプリンターで製作しました。そして、製作したロボット漁船模型を曳航水槽で強制的に動かし、ロボット漁船に生じる流体力を計測し、速度や角速度や変位角等々に応じた流体力データベースを作ることで操船シミュレーションプログラムを作っています。
※3Dプリンターで作ることもありますが、船が最終形状になったら一体モノとしてGFRPで作ります。詳細はこちら
ロボット漁船の操船シミュレーション技術の構築に向けて②
船体の流体力とともに重要なのが、プロペラが生み出す推力やストラット(一般的には舵)が生み出す流体力です。曳航水槽で計測すことも可能ですが、試験装置の配置が楽なのが回流水槽です。波がおさまるのを待つ必要もありません。どんどんデータを取得していきます。
回流水槽に検力計を設置し、これにロボット漁船のストラットを取り付けます。回流水槽で流れを起こし、ストラット角度を変えるとともにプロペラも制御して検力を行っていきます。これもデータベース化していきます。
必要な流体力をデータベース化しましたので、最後に操縦運動方程式を解き、ロボット漁船の操船シミュレーションを行っていきます。風や流れは任意に与えられるようにして、運動方程式の外力項に加えてシミュレーションします。
国際科学雑誌への投稿
世界初の発見は、その足跡を残すべく科学雑誌への投稿を目指したい。但し、我々は論文至上主義ではありません。これは世界に向けて発信すべきものだと判断したら投稿するというスタンスにしています。技術は時にノウハウ止まりであることさえあります。それが確かに重要な時もあります。一方で、ノウハウ止まりで納まらない時にはきちんとその成果を科学雑誌に公開していきます。多くの人の目に触れることにより、新しい社会は拓かれる可能性が高まるからです。しっかりと自分たちの足跡を残すことで、次の新しい社会の1ページに繋がればと思います。
修士課程における研究が、国際的な科学誌に投稿できる程研究の世界は甘いものではありません。特に我々のようなシーズ(種)から社会実装迄を目指す研究においては尚そのハードルは高いと考えます。そんな中でも科学誌に投稿するチャンスはあります。研究にかける時間が多ければ多いほどその確率は一層上がるものです。折角やるなら世界初の発見をしてその足跡を歴史の1ページに刻んでほしいと思います。
研究生活の中での楽しみ
地道な研究生活でも少しは楽しみがあるものです。一つは、成果を発表する為に行く国際会議、国内会議でしょう(例えばスペインでの国際会議の様子)。卒業研究においてしっかり成果が出ていたら修士1回生でもすぐに国際会議に出席するチャンスが巡ってきます。国際会議は風光明媚なところで開催されることが多く、つかの間の息抜きになるはずです。それだけでなく、研究の第1線で活躍されている方、開発の第1線で活躍する方も参加しているので、そういうのを目の当たりにすることは自分の次の目標となるはずです。そして、国際会議では、そういう方々から自分たちの研究について意見をもらうことが出来ます。
また、同じように、よく頑張っている学生には教員の方から海外への短期留学を進めています。国際会議も良い機会ではありますが、やはり、2、3か月でも外国の研究室に行き、そこでどっぷり異空間で研究生活を送る事はもっと良い機会でしょう。
学外での施設を借りての実験も機会があります。
そのほか、研究室での旅行や、飲み会等、楽しい研究生活も勿論あります。
折角なので、現場に足を運べると尚一層自分の研究がどこに使われるのかしっかりと意識も出来ると思います。フリップファーム牡蠣養殖を研究を行った学生は大分県のフリップ養殖を行っている生産者さんのところで実際に作業を手伝って来ることでリアリティーのある研究に繋げています。また、他の1次産業の現場(牧場体験だってしちゃいます。)に足を運んでもらうこともあります。本当に色々なことを貪欲に経験しましょう。
学生時代の多くの地に足の着いた経験こそが40代、50代になった時の自身の土台を形作っていくと信じています。
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進学or就職
博士前期課程(修士課程)を終えるときに2つの進路が考えられます。就職か、博士後期課程(博士課程)に進学か。一般的にはこの2つと言えるでしょう。
修士課程の2年間の研究生活では、やはり全てが明らかになるとは言いにくいものです。次の3年でさらに究め、様々なことを明らかにする作業が博士課程の3年間となります。2年間だけでは追求しきれなかった物理メカニズムを解明することが出来たり、更に修士の研究を応用していく等々、論理的思考の仕方が飛躍的に向上することになると思います。
一方、修士を終えて就職することも選択肢の1つとして勿論あります。ビジネスの荒波の中で、自分がどこまで通用できるか試すことができるだろうと思います。研究室のメンバーの主な就職先は設計やプロジェクトベースデザインを手掛けるエンジニアリング会社が最も多く、設計力や発想力を必要とする会社で活躍するパターンが今は一番多いです。
どちらを選んでも、得られた教養や経験や技術は必ず生かせるものです。楽しく、有意義な人生となるはずです。重要なことは、修士課程の与えられた自由な時間を精いっぱい過ごすことだろうと思います。